長女を守るために──家族関係に悩む高齢女性が選んだ「公正証書遺言」の決断

状況

倉敷市にお住まいのYさん(80歳・女性)は、夫に先立たれた後、一人暮らしをしていました。

家族は、長男と長女の二人です。長男は大阪に家族と暮らしており、特にその妻(長男の嫁)とYさんとの折り合いが悪く、長年にわたって関係がぎくしゃくしていました。一方で、長女は倉敷市内に住んでおり、日常の買い物や通院の付き添いなど、何かとYさんを支えてきました。

夫の相続時には、不動産はYさんが引き継いだものの、預貯金などのその他の財産はすべて長男が相続しました。当時から長男が主導して手続きを進めたため、Yさん自身は内容をよく理解しないまま終わってしまったという苦い経験がありました。そのこともあって、「自分が亡くなったときに、またすべてを長男に持っていかれるのではないか」という不安を抱くようになったといいます。

Yさんの本音は、「自分を支えてくれた長女に全財産を託したい」というものでした。しかし同時に、長男とのトラブルを避けたい気持ちもありました。「全てを長女にすると、長男から何を言われるかわからない。やはり法定相続分どおりに分けたほうがいいのか……」と、心の中で揺れていました。

遺言を作るべきだとは聞いたことがあるものの、どこに頼めばいいのかもわからず、司法書士・弁護士・行政書士・公証役場などの違いにも不安を感じていました。また、「遺言を作るのにどれくらい費用がかかるのか」「どんな方式にすればいいのか(自筆証書か、公正証書か)」といった具体的な疑問もありました。そこで、インターネットで倉敷市内の相続専門事務所を検索し、口コミの多かった当事務所の無料相談を予約されたのが、今回のご相談のきっかけでした。

相続手続きの設計

初回面談では、Yさんの想いを丁寧に伺いながら、相続人間の人間関係や将来のトラブルを見据えた上で最適な方法を検討しました。その結果、公正証書遺言の作成を提案しました。

公正証書遺言は、公証人が関与する「公文書」として作成されるため、形式の不備で無効になる心配がなく、また家庭裁判所の検認も不要で、相続時の手続きがスムーズです。特に、遺言どおりに遺産を引き継ぐ際に、銀行や法務局での手続きが簡略化されるため、長女にとって大きな助けとなります。

さらに、司法書士事務所として、公証人との事前協議や当日の証人立会いを含めて全面的にサポートできることもお伝えしました。遺言内容は、Yさんのご意向を尊重し、「すべての財産を長女に相続させる」内容で案文を作成。ただし、長男に対しての配慮として、付言事項に「これまで長女に支えられてきた感謝の気持ちと、兄妹が争うことなく穏やかに過ごしてほしい」という想いを記載することを提案しました。

また、遺言執行者として長女自身ではなく、司法書士法人を指定する方法も説明しました。遺言執行者は、遺言内容の実現に向けて銀行・法務局での手続きや相続人への通知、財産目録の作成・開示などを行う必要があります。専門家を指定しておくことで、長女の心理的・実務的負担を大きく減らすことができます。

なお、遺言作成の専門家選びについては、「作成時だけでなく、相続が発生した後も継続的にサポートできる体制」が重要であることも説明しました。

例えば、行政書士だと将来の不動産の名義変更ができず、司法書士が必要となる点、弁護士だと紛争性のある相続も含めてお任せできる反面、費用が高額となる点、公証役場だと手続きはできても遺言内容についてはアドバイスしてもらえない点をご説明しました。

また、個人事務所よりも法人として安定した運営体制を持つ司法書士事務所を選ぶことをおすすめしました。

Yさんの相続財産は、居住用不動産と預貯金が中心であり、相続税の心配はありませんでした。したがって、複雑な税務対策よりも、「ご自身の意思を明確にしてトラブルを防ぐ」という目的に重点を置くことが、最も合理的な設計でした。

相続手続きを行うメリット

遺言を残すことにより、相続人間の遺産分割協議が不要となり、相続手続きが格段にスムーズになります。とくに今回のように相続人間の関係が微妙な場合、遺言があるかないかで手続きの難易度は大きく変わります。

Yさんの場合、公証役場で公正証書遺言を作成したことで、将来的に長男が内容に異議を唱える余地がほとんどなくなり、長女が安心して手続きできる環境を整えることができました。

実際の手続きの流れとしては、まず見積書(公証人費用なども含む)を提示し、ご了承後に不動産の登記内容を調査。その後、戸籍収集・財産内容の確認を行い、遺言案を作成しました。公証人との打ち合わせを経て、約1か月後には公証役場で正式な遺言書が完成しました。当日は司法書士が証人として立会い、全ての手続きが無事に終了しました。

公正証書遺言を作成しておくことで、将来の手続きだけでなく、遺言執行時に専門家が関与するため、長女が一人で銀行や法務局を回る必要もなくなります。Yさんは、「これでようやく安心して過ごせる」と笑顔を見せておられました。

まとめ

本事例は、家族関係に不安を抱える高齢の相談者が、自分の意思をしっかり形にすることで安心を得たケースです。遺言書は、財産をどう分けるかという「お金の問題」だけでなく、家族への想いを残す「心のメッセージ」でもあります。

倉敷市や岡山県内でも、「うちには相続税がかからないから関係ない」と考える方は少なくありませんが、実際には相続税よりも「遺産分割のトラブル」の方が深刻です。特に、相続人の関係が複雑な場合、公正証書遺言の作成はもっとも確実で安心な選択といえます。

当事務所では、単なる文書作成だけでなく、依頼者の想いを汲み取った「争わない相続」のサポートを重視しています。相続や遺言に少しでも不安を感じたら、早めに専門家へ相談することをおすすめします。